蛇美

私は今日まで生きてきました…

【記事】大トロを食べて頭痛が出現!?

数年前、魚を扱う仕事をしている結核患者さんを受け持ったことがあります。
40歳くらいのガッシリした男性で、「魚のことなら何でも聞いてくれ!」というのが口癖なくらい、魚が大好きな方でした。

結核病棟の入院期間はおおよそ1〜2カ月ですが、患者さんにとってこの長期間の入院は非常にストレスになるものです。
彼も入院してから1カ月目にはストレスが爆発しそうになっていました。

患者さん:「先生頼む、寿司食いに行かせてくれ! どうしても寿司が食べたいんや!」

いくら懇願されても、退院基準を満たしていないと退院させることはできません。
毎日のように「結核は良くなってきていますし、そのうち絶対退院できますから、もう少し時間をください」と説得をしていました。

―――そして彼が入院して50日目。
ようやく彼は退院基準を満たすことができました。

患者さん:「先生、海に行ってもいいよな!? 寿司食べに行ってもいいよな!?」

と嬉しさを全開にした患者さんが矢継ぎ早に質問してきました。
後に、私はこの時点で寿司について注意すべきであったと後悔しました。

彼が退院してから1週間。2週間目の外来受診を待たずして、彼が私の外来を受診しました。

私:「あれ、どうしたんですか?」

患者さん:「昨日よ、入院中に食えなかった大トロをこれでもかっていうくらい食べたんやけど、頭が痛くなって胸が真っ赤になったんやわ。かゆくてかゆくて」

私はその時、悟りました。結核に対するイソニアジド(商品名イスコチン他)を内服している患者さんがマグロやカツオなどのヒスチジンを多く含有する赤身魚を食べると、ヒスタミン中毒症状を生じやすくなることを。
イソニアジドにはジアミンオキシダーゼを抑制する作用があるためです。

私:「その大トロってパックに入った少し古い商品でしたか?」

患者さん:「そうそう。市場で朝買ったトロを夜に食べたんや」

イソニアジドを内服している患者さんは、おしなべて寿司がダメというわけではありません。
ヒスチジンの多量摂取が良くないのです。
赤身魚の場合、ちょっと時間を置いた刺身などにはヒスジチンがかなり多く含まれているので、注意が必要なのです。

結核治療中にはアルコールはできるだけ避けてもらうようにお願いしていますが、意外にも「あまりよくない食べ合わせ」は多いものです。
イソニアジドは、チーズや牛乳などの乳製品、ビール、ワイン、レバーといったチラミンの多い食物を食べることで、血圧上昇、動悸を起こすこともあります。

こういった食材のすべてがダメというわけではありませんが、患者さんに詳しく情報提供しておく方がよいと思います。

この患者さんはその後、新鮮な大トロを自己判断で勝手に食べたそうですが、頭痛や掻痒感は出現しなかったそうです。
新鮮な魚ならば大丈夫な場合もあるのですね。

2014年08月24日