蛇美

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【記事】患者の話に上手に相槌を打つコツ

Q.患者の話はきちんと聞いているつもりですが、勤務先のナースによれば、「Y先生の診察は、いつも先を急かされているような気がして、落ち着いて話ができない」と話す患者が少なくないそうです。
私の話の聞き方のどこが間違っているのでしょうか?(40代、大学病院勤務医Y)

A.Y先生から相談を受け、私はさっそく、診察室での患者とのやりとりをビデオ撮影してもらいました。
それを見ると、患者が何か話すたびに、Y先生は「ふむふむ」と決まりきった相槌を入れていることが分かりました。
まだ患者が話している最中なのに、「あのね…」とさえぎる場面も何度かありました。
これは、パフォーマンス学では「かぶせ発言」と呼び、やってはいけないことの一つとされています。

私たちには、自分の伝えたいことを言葉などで表現し、それを相手に聞いてほしいと願う「自己表現欲求」があります。
この欲求は、満たされれば自然に消えてなくなるのですが、話の途中でさえぎられたりすると、妨害されたと感じ、「言いたいことが言えない」という不満につながります。
Y医師の場合、自分では患者の話をしっかり聞いているつもりでも、患者は「きちんと聞いてもらえていない」と感じていたのです。
とはいえ、医師が患者の話をずっと聞いてばかりでは、診察になりません。中にはいつまでもダラダラと話し続ける患者もいます。このような患者から、効率的に話を聞き出し、診察をするには、どうすればよいのでしょうか。

第一のテクニックは、「そんなことを言ってもね」などと言葉でさえぎるのではなく、小さな動作で示すことです。椅子の向きを変えて患者の顔をのぞき込んだり、患者の目をじっと見つめたりして、「ちょっと待って」というサインを送りましょう。
すると患者は、「先生も言いたいことがあるんだな」と気付いて言葉を止めます。そのタイミングで「あなたのおっしゃることはよく分かりました。それについてですが…」と、相手の言い分を認めた上で、発言権を自分に移動させるのです。
これが上手にできると、相手に「さえぎられた」と思わせずに済みます。

第二のテクニックは、相手の話の途中で、うなずきと相槌を上手にはさむことです。
こうした動作のことを「言語調整動作(レギュレイターズ)」と呼びます。
言語調整動作は、相手の発言を促進したり、逆に止めたりするための動作の総称です。

患者は「胸が苦しい」「目が痛い」など様々な訴えで受診しますが、そのすべてに対して「それは大変、困りましたね」と返す必要はありません。アイコンタクトを保ったまま、首を小さく縦に振って、きちんと理解したということを伝えれば十分です。そして時折、「なるほど、それはつらかったですね」といった言葉をはさみましょう。

 医師は忙しいこともあって、つい「ふむふむ」で済ませてしまうのですが、同じ相槌を同じタイミングで返すことは、オートマトン(自動操縦)と呼ばれ、避けるべきです。オートマトンの相槌が返ってくると、患者は「この先生は、本気で聞いてくれていない」と感じてしまうからです。

 相槌の表現は、できれば毎回、違う言葉を用いましょう。「そうですか」と言ったり、「ふむふむ」と言ったり、あるいは「そうだったんですね、大変だ」と驚いて見せたりなどと、幾つかの言い回しを用意しておきましょう。これは、患者に「医師にきちんと聞いてもらえている」という安心感を与える効果があります。レギュレイターズは、ワンパターンに陥らず、バラエティーを持たせることが重要なのです。
例えば、患者が「目の中に何か変なものが見える」と訴えたとしたら、「例えばどんな形ですか」と続けてみます。
すると患者は、「ギザギザした雲のような形です」などと答えてくれるでしょう。すると会話がつながって、医師は患者からより詳細な情報を得られるのです。

第三のテクニックとして、精神的な問題を抱えている人たちのカウンセリング技法として用いられる「主訴の整理・確認」を挙げておきましょう。
これは、患者に「医師にきちんと話を聞いてもらえている」と思わせ、安心感を与えます。
患者の訴えが多岐にわたる場合、医師は、ただうなずくだけで終わるのではなく、「そうすると、主に3つのお悩みがあるのですね。
1番目は…」などと、患者に代わって整理してあげましょう。
こうした場合、患者は自分の頭の中が整理されていないことが多いので、医師が整理してくれると、安心、納得につながります。
そこで、「では、この3つを解決するために、こういう治療をしましょう」と、次のステップに持ち込むのです。
程よい相槌を入れずに「かぶせ発言」でさえぎったり、だらだら続く話を整理せずに聞き流していたりすると、医師の側にも患者の混乱が伝染してしまい、診察がスムーズに進みません。
患者の主訴を整理し、確認することは、患者はもちろん、医師にとっても重要なプロセスなのです。

2012年12月06日