蛇美

私は今日まで生きてきました…

【記事】「プライドの高すぎる患者への接し方」

Q.
難聴を訴えて受診した患者に対し、入院して精密検査を受けることを提案すると、いきなり「先生は名医と評判だから来たのに、どうしてすぐに治せないんですか!」と高圧的な態度で言われてしまいました。
このようなタイプの患者に、医師はどう接すればよいのでしょうか?
(30代、大学病院耳鼻科勤務医J)

A.
著名な経営コンサルタントであるというこの患者は、「突然ひどい耳鳴りを感じ、いても立ってもいられない」と訴えて、予約なしで受診しました。
J医師は診察後、「可能であれば、1週間くらい入院していただき、きちんと原因を調べた方がいいと思います」と伝えました。

J医師としては、この患者は多忙で、いつも頭から仕事のことが離れないだろうから、この際、入院して徹底的に調べた方がいいだろうと、むしろ気を使って提案したのです。
にもかかわらず、患者の返答が「すぐに治せないんですか!」だったので、不快に感じたと言います。
しかも、そのときの患者は、あごをしゃくり上げ、鼻孔を膨らませ、顔を少し上斜めに持ち上げて、まるで医師を上から見下すようだったとのこと。
J医師は、患者からこのような態度で話をされたのも初めてだったので、余計にとまどってしまったのでしょう。

★プライドは一瞬の表情に出る
おそらくこの患者は、自分の仕事が社会的に高い評価を受けているため、プライドを持って仕事をしているのでしょう。
このような自信家であっても多くは、専門家である医師の前では、一歩へりくだった話し方や顔つきをするものです。
しかし、一部にはこの患者のように、たとえ相手が医師であっても、自分の「自尊欲求」を抑えられない人がいます。

そんな人は言葉遣いや話し方で分かりますが、表情にも共通する特徴があります。
例えば話をするときは、あごをやや上方にしゃくりあげ、鼻孔に力を入れて膨らませます。
医師と話すときは上まぶたが下がり、目が細くなりますが、眠くなったときのように自然に細くなるのではなく、上まぶたがかぶさっているのに下まぶたにもグイッと力が入り、はたから見ると、何だか下まぶたがちょっと膨らんだように見えます。

J医師の患者は、まさに典型例。多忙な生活を送っていることが自慢と自信になっており、だからこそ、「入院」という言葉を聞くやいなや、強烈な拒否反応を示したのです。
こうした反応は、J医師には予想外であったに違いありません。

プライドの高すぎる患者は、どの医療機関にも時折受診するものです。
しかし、医師が、患者の高圧的な態度からネガティブな印象を抱いてしまっては、そもそも患者との良好なコミュニケーションは成り立ちませんし、その後の診療にもかかわります。

★患者の価値を認める一言を
パフォーマンス学の観点からは、医師の打つべき手は3つあります。

まず1つ目は、相手の性格を見極めることです。
患者が診察室に入ってきたときの顔の動きや表情から、「プライドが高そうだ」と気付くことが、まず大切です。

カルテの確認などに忙しくて、患者が椅子に座ってこちらの顔を見るまで、患者の顔をよく見ない医師がいますが、それではこの見極めはできません。
あごが上がり気味になっていないか、椅子に座るときに見下すような目つきになっていないかを、素早くチェックすることを習慣付けておくべきです。

2つ目は、もしもあまりにもプライドが高い患者であれば、話を医学的なことに限定することです。
「あなたの症状の原因は○○と思われます。
精密検査のために1週間程度の入院が必要ですから、お帰りの際に手続きをお願いします。
部屋の条件など詳細は、担当者から説明させます。
ご質問があれば何でもおっしゃってください」などと、医学的なこと以外は、医師自身は細かなことまで説明しないことをお勧めします。

一般的に、プライドが高すぎる人は、自分の「承認欲求」や「自己顕示欲求」が、相手の言動によってすぐに満たされることが少ないので、長い説明を受けても不満が残りがちです。
不満がある状態で医師の話を聞くため、つい疑いや批判の気持ちが表情に出てしまいます。その結果、対応する医師も、不愉快になってしまうのです。
話が長くなると、どうしてもこうなる機会が増えてしまうので、短く切り上げましょう。

さらに、患者の高圧的な態度は、医師以外の職員に向けられることもありますから、医師は、対応した職員を後でねぎらうなど、フォローを忘れてはいけません。

3つ目の対策としては、もし医師の側に時間的な余裕があり、さらに心理的ストレスにも大してなりそうにないと感じるなら、患者の価値を認めるような一言をかけてあげることです。
患者は、医師の一言で、実に単純に喜んでくれるものです。
「あなたは経営コンサルタントをなさっていて、大変お忙しいと思いますが、二度と耳鳴りで悩まなくても済むように、何とか入院の日程が工面できればいいですね」などという具合です。

この3つを守れば、医師自身が不快な思いを抱くことが減り、余分なストレスを回避できるでしょう。

2013年06月07日