蛇美

私は今日まで生きてきました…

催眠療法の裏 (備忘録)

■ 要約

一時隆盛を誇った催眠療法は1900年代前半には下火になったが、エリクソン(Erickson,M.H.)の功績により1950年代後半に再び日の目を見ることとなった。
最近では他の心理療法の台頭と科学的な催眠研究により、催眠自体の治療的効果は非常に限定的であることがわかっている。
そのため、ASCHでは「催眠療法」という言葉を用いた論文を受理しない方針を出している。
催眠の専門家自身がこのような見解を出しているのは注目に値する。

しかし、日本においてはこのような催眠の認識は広まっておらず、いまだに催眠を看板メニューにしている者は多い。
逆説的だが、催眠を効果的に用いているところは催眠を看板メニューにしていないことが多いと示唆される。


催眠療法催眠療法家の現実

日本の心理療法家(セラピスト)やカウンセラーのレベルはばらつきが非常に激しいと言えます。
医者にも俗に言うヤブ医者や名医というようなものがありますが、どの医者もレベルは比較的安定しています。
画像診断や触診も行わずにいきなりメスでバリバリ腹を切るような外科医はいません。
もしもこんなことがあれば世界中でニュースになるでしょう。ところが心理療法の世界では、アセスメント(画像診断や触診)能力のない人が心理療法を行う(腹をバリバリ切る)ことが起こりえます。

どうしてそのような事態が起こるのかと言うと、医者とは違い、心理療法家やカウンセラーというのは「自称」でも法律的に問題ないからです。
医師免許がないのに医者を名乗れば医師法違反です。
しかし、心理療法の場合、ごく普通のサラリーマンが100円の古本でカウンセリングの知識をちょっと身につけてカウンセラーを名乗っても問題ありません。
しかも、そのような人に箔(はく)をつけるために存在する民間資格(「催眠・心理に関する資格」を http://mixi.at/a8gUVxx 参照)もあります。
心理の業界は資格がまだ法的に整備されていないので、もっともらしい妙な資格が横行し、きちんとした訓練を受けている人とただの素人の区別が難しくなっています。

心理療法の中でも、特に催眠療法は一見すると劇的に効果があるように思えます。
しかし、実際の心理臨床の教育現場では催眠療法はそれほど重視されていません。
催眠療法心理療法の出発点で、今では催眠療法よりも、そこから派生した心理療法が主流であるからだというのが主な理由です。
例えば精神分析療法はもともとは催眠から生まれたという話は有名ですね。
その他、催眠を発展させた心理療法は数多く存在します。
催眠自体には特別な治療的効果はないので、催眠に対する過大な期待を避けるために「催眠療法」という言葉は使うべきではないという考えが現在では主流となっています

催眠療法の広告を見ると信じられない話かもしれませんがこれが現実です。

「まだ催眠療法は始まったばかりであまり普及していません。
当所では時代の先端を行って催眠を取り入れ・・・」
という宣伝もたまに見かけますが、それは逆です。
すでに催眠のエッセンスは他の心理療法に吸収されているので催眠自体があまり普及していないのです。


■ カウンセラーや心理療法家の行く末

一般にこの職業は儲からないので、カウンセラーや心理療法家の行く末はおそらく次の3パターンに集約されます。

1.細々とカウンセラーや心理療法家を続ける。
2.儲けに走る。
3.他の仕事と掛け持ちで心理療法家を続ける。


特に2と3には問題があります。
2の場合、催眠に対する「なんでもできそう」という世間の期待を利用して儲けにつなげる人がいます。
養成学校を経営したり、よくわからない資格を販売したり、ぼったくり催眠療法をしたり、精神世界やオカルト(前世、宇宙のパワー、神秘体験、超能力など)の話と催眠を結びつけて商売にしたり、というのがよくある方法です。

3の場合、「普段はサラリーマンやアルバイターだが週末は催眠療法家」のように、心理とは関係ない仕事をしている催眠療法家を果たして信頼できるでしょうか?
もし友人がそのようなところへ行こうとしていたら私なら引き止めます。


催眠療法を選ぶ際の一番無難な選択

信頼できる催眠家はどこにいる? http://mixi.at/a8f7kaT を参考にしてください。
このページの条件を満たさない催眠家はテレビに出ていても本を出していても、見せ掛けだけのにわか専門家であるる可能性が高いです。

にわか専門家は似たもの同士でネットワークを作っていることも多いようです。
このネットワークにはまってしまうと、いくら他を当たっても同じようなところに行き着いてしまいます。
このどつぼから抜け出すには「公的機関、病院、大学、もしくはそれとの連携」を鍵にして、専門家を探し出すのが最良の策です。
同じく、学会や学術雑誌を通じて専門家相手に情報発信を行っている催眠家に目を向けることも大切な見方です。
専門家相手ではなく、素人に向けてアピールしているだけの催眠家は専門的な情報をもっていないので要注意。

もちろん、街角の宣伝上手な催眠療法家が絶対にダメだというわけではありません。
しかし、フロイトが放棄したレベルの催眠療法にさえ達していない催眠療法家が存在するのが現状です。
また、心理療法の世界はたえず進歩しているので、催眠療法にこだわる必然性はありません。
重要なのは「催眠か催眠でないか」ではありません。
「腕が良いかそうでないか」です。



催眠療法家と占い師

今の時代、簡単なカウンセリング理論や催眠術ぐらいは占い師でさえも勉強していると言われます。
なるほど、これはうまく現実社会の一面を風刺している言葉です。
たしかに催眠やカウンセリングの初歩は占い師も勉強しています。
でもそれで人を欺くことはできても、心理的問題を解決するのはちょっと難しい。

繰り返し述べるように、催眠療法というのは他の心理療法や治療の「補助的手段として」使われて初めて本当の威力を発揮します。
催眠の専門家であることを強調する人は、他の基本的な知識や技術がないからこそ催眠を強調しているわけです。


■ 催眠は調味料

心理療法は料理、催眠は味付けのための調味料のようなものです。

調味料だけでは料理は作れません。
反対に、料理の腕があれば調味料がなくても料理は作れます。
調味料を使うと、素人が料理してももっともらしい味にすることができます。

要するに、腕の良い心理療法家は催眠を使わなくても成果を上げることができます。
あらかじめ催眠のエッセンスが含まれている心理療法も数多くあり、あえて催眠!という必然性は感じられません。
逆に、催眠を目玉商品にしている者は、催眠誘導ができるだけの「ただの催眠術師」だとも考えられます(これを一般的には民間催眠術師=lay hypnotistと呼びます)。

催眠と同じく、お手軽なものにNLP神経言語プログラミングがあります。
これを催眠と組み合わせているところもありますが、NLPも催眠と同じく調味料のようなものです。
むしろ実験研究によってNLPのテクニックが否定される結果が出ていたりもします。
一部の専門家からNLPを問題視する声も出ており、その効用が誇張され、資格商法・教材商法的に利用されている傾向が強いのが現状です。
共同創始者のBandlerとGrinderも今では決別しており、両者がNLPの利権問題をめぐって裁判で争うという有様です。
NLPに関する学会も存在しません。
催眠、NLPは、塩・コショウ程度に使うためのもので、メインディッシュにはなりえないのです。
(もちろん催眠やNLPがまったく役立たずだといっているわけではありません。)

2016年02月11日