蛇美

私は今日まで生きてきました…

催眠はこうして宣伝される

金運の上がる財布を購入したゆんさん。
一向に効果が出ないので業者にクレームをつけようとしています。
読みながら、業者の言い訳に突っ込みを入れてみましょう。

ゆんさん:
金運が上がる財布ってのを5万も出して買ったけど金運上がる気配さえないっての。
むしろ湯水の如く金が流出。どういうこっちゃねん。

灰田教授:
またバカな買い物しおってからに・・・。
だいたい、金運を上げようという心がそもそも卑しいわい。

ゆんさん:
しかし納得いかない! 
業者に直接乗り込んでくる。

灰田教授:
・・・(また上手いこと丸め込まれるのがオチだな)


サギサギ商事:
これは毎度どうもお世話になります。
今日はどういったご用件で?

ゆんさん:
どうもこうも、金運が上がる財布とか言ってぜんぜん金運上がってないじゃん! 
うさんくさいとは思ってたけどやっぱインチキじゃないの? 金返せー!

サギサギ商事:
それはそれはお怒りのほどごもっともです。
ですが、もうしばらく様子を見てみては? 
金運は焦るほど巡ってこないものですよ。
それに、うさんくさいと思っていては上がる金運も上がりませんよ。

ゆんさん:
それはわかるんだけど、この財布が5万円ってのはどういうことよ。
ちょっと高すぎやしない? 
それがますます腹立つんだけど。

サギサギ商事:
お言葉ですが値段は適正価格かと。
ゆん様もご存知かと思いますが、この財布は直輸入の希少モデルゆえ、もともと5万円の価値がありまして・・・。
それに、良い物だからこそ金運が巡ってくるんですよ。
汚い身なりの浮浪者に金運は来ないでしょう?


ゆんさん:
うーん、なんか釈然としないんだけど・・・。
金運が上がるメカニズムもよくわからないし・・・。

サギサギ商事:
金運が上がるメカニズムは購入時に説明したとおりでございます。
この財布は高価なものですから、それを購入したことによってゆん様の無意識は金持ちの心理を無意識的に理解します。
また、財布の大きさはその人の心の大きさ、心の余裕、無意識の金銭感覚の象徴です。
この辺り、フロイトユングに精通したゆん様なら容易にご理解くださると思っていたのですが・・・。
薄っぺらい財布を持っていても、そこには少ししかお札が入りません。
その場合、札束が入っているイメージが浮かばないので、金持ちになどなれるはずもありません。
それに比べてこの財布を見てください。
どうです、この分厚さ!
 ここに札束がいっぱい詰まっている様子をイメージしてください。
真剣にイメージすれば何でも現実になるのです。
イメージこそ催眠の本質です。
ほら、金運はもうすぐそこですよ。

ゆんさん:
うーん、感覚的には理解できるけど、やっぱりおかしな理屈よねぇ。
象徴ってそんな意味では使われてなかった気がするし…。
たしかに無意識とか潜在意識がすごい力を持ってるというのはユング先生も言ってたけど。

サギサギ商事:
はい、たしかに理屈では理解できないかもしれません。
でも大切なのは理屈ではありません。
感性・直感こそが最後には大事なのです。
理屈では説明のつかないことってたくさんあるでしょう? 
理屈を捨てた瞬間にすべてが理解できるのです。
これはゆん様の著作にも書かれていたことですよ。

ゆんさん:
・・・・・・。
なるほど! 
今までなんだかんだで理屈で考えてたからダメだったんだ。
やっぱ感性って大事だもんね。
改めて聞くとなんだか金持ちになれそうな気がしてきたぞ。

サギサギ商事:
ポジティブな気分になっていただいたようですね。
ポジティブ思考も大事ですよ。
でも本当にすごいのはここからです。
イメージするのは大変ですが、この財布を常時持ち歩いていれば、ゆん様の潜在意識の中に金持ちの金銭感覚が刷り込まれます。
何もしなくてお金持ちになれるのです。
すごいでしょう?

ゆんさん:
イメージしなくても良いんだ!
それは初耳。
すごいな。
やっぱサギサギ商事の商品に間違いはないね!



コメント&復習

ゆんもすっかり納得してご満悦のようだな。
めでたしめでたし。
と言いたいところだが、めでたいのはゆんの頭の中であって、周りから見ると彼女は哀れな犠牲者に見えないこともない。
とりあえず以下の気になる言葉を振り返ってみよう。

★もう少し様子を見てみては?
とりあえずこのように言っておけば、当面の不満を回避することができます。
上手くいけば、そのうち偶然ツキが回ってきたのを「財布のおかげだ」と言うことができます。

★金運は焦るほど巡ってこないものですよ
★真剣にイメージすれば現実になるのです

この2つは矛盾した主張ですが、なにげなく使われると自然に見えますよね。
言葉のマジックです。

★うさんくさいと思っていては上がる金運も上がりませんよ
効果が出ないことを、うさんくさいと思う消費者の心に責任転嫁する手口です。
実際には「金運が上がらないからうさんくさいと思うようになった」のに、「うさんくさいと思ったから金運が上がらない」という論理にすりかえられています(因果関係の逆転)。

★良い物だからこそ金運が巡ってくるんですよ。汚い身なりの浮浪者に金運は来ないでしょう?
もちろん、所持品の良し悪しも金回りに多少は影響するでしょうが、実際には「金回りが良いから良い物を持っている」「金がないから汚い身なりをしている」と言ったほうが事実に近いでしょう。
つまり、これも因果関係の逆転です。

★理屈ではないんです
論理的な話し合いを回避して有無を言わさず相手を丸め込めるために使われる言葉です。
例えば、どんなに筋の通った主張も「たしかにあなたの言っていることは理にかなっているけど、なんか違うんだなぁ。理屈じゃないんだ。感性なんだよ」と言われるとそれで話は終わってしまいますよね(思考停止)。
この言葉はなんとなく科学批判ができてしまう上に「君は大切なものを見落としている」的な人生訓的な説得力まで持ちます。
まさに極上のインチキ言葉です。

★無意識の中に金持ちの金銭感覚が刷り込まれます
この論法を使えば、たとえ効果が出ても出なくても説明ができます。
効果が出れば「ほら、無意識に刷り込まれた結果です」と言えばもちろん良いですし、効果が出なくとも「まだ十分に刷り込まれていないだけです」と言えば良いのです。
刷り込まれているか否かは確かめようがないので、相手は納得するしかありません。
このような「無意識」「潜在意識」を使った言葉は催眠業界の詐欺師によって頻繁に使われます。


この財布は高価なものですから、それを購入したことによってゆん様の無意識は金持ちの心理を無意識的に理解します。
また、財布の大きさはその人の心の大きさ、心の余裕、無意識の金銭感覚の象徴です。
この辺り、フロイトユングに精通したゆん様なら容易にご理解できますよね。
薄っぺらい財布をもってても、そこには少ししかお札が入りません。それでは金持ちになれるはずがないのです。
なぜなら、札束が入っているイメージが浮かばないからです。
それに比べてこの財布を見てください。
どうです、この分厚さ! ここに札束がいっぱい詰まっている様子をイメージしてください。
真剣にイメージすれば何でも現実になるのです。
イメージこそ催眠の本質です。
ほら、金運はもうすぐそこですよ。

ここまで来ると、上に示す「金運の上がる財布のメカニズム」に隠されたカラクリも解けますよね。

2016年04月11日