蛇美

私は今日まで生きてきました…

【記事】「外用薬がなくなったら受診」では水虫は治らない

塗り薬は、当たり前のことですが、病変部に薬がつかないと効果を発揮できません。
飲み薬は飲んでくれさえすれば体中に行き渡りますが、塗り薬は患者さんがきちんと
「適切なタイミングで」
「必要な範囲に」
「必要な量」
を塗布してくれないと効きません。
特に、
「必要な範囲」と「必要な量」が大切で、次いで「適切なタイミング」も守れれば、より効果が高まります。

「しっかりと塗ってくださいね」という“指導”だけでは、塗り方に関する重要なポイントが患者に伝わらないのです。

今回は、外用抗真菌薬の塗り方と、外用指導について解説していきます。

「適切な範囲」について意外に思われるかもしれませんが、足の趾にしか病変がなくても、外用抗真菌薬は足全体に塗る必要があるのです。
しかも、片足にしか病変がなくても、両足に塗布する必要があります。
片一方の足で踏んだ床をもう一方の足で踏むわけですから、必ず両方の足に白癬菌は存在するのです。
もう少し細かく言うと、足底、趾間、趾背、足縁、アキレス腱部まで、両足に外用します。
症状がなくても、この範囲全体に塗布する必要があります。
これらは、足の裏(足蹠)の皮膚、すなわち、うぶ毛が生えていない部分です。
これらより上部はうぶ毛のある普通の皮膚になります。
白癬菌は足蹠の皮膚が好きなので、足底を越えて周囲にまで容易に拡大します。

「適切な量」を考えるには、最近、アトピー性皮膚炎や乾癬の外用指導でよく用いられる「fingertip unit」(FTU)の概念で考えると分かりやすいでしょう。
1FTUは、チューブに入った外用薬を示指の指尖部からいわゆる第一関節(遠位指節間関節)まで押し出した量で、およそ0.5gになります。
これは、手のひら2枚分、つまり体表面積の2%に塗布するのに必要十分な量です。
足底、趾間、趾背、足縁、アキレス腱部の面積もおよそ1FTUとなります。

★体の各パーツに塗布するのに必要な外用薬の量
体幹前面(胸・腹)、体幹背面(背中・臀部)=7FTU
・上肢(片腕)=3FTU
・下肢(片足)=6FTU

1FTUが0.5gですから、2FTUは1gです。
つまり、足白癬治療に塗布するべき範囲に十分な量の外用薬を塗るためには毎日1gが必要なことになります。
そうすると1カ月では30gになり、これは外用抗真菌薬のチューブ3本に相当します。

つまり、患者に1カ月後の再診を指示するとすれば、30gの外用抗真菌薬を処方しなければならないわけです。みなさんは、十分な量の外用抗真菌薬をきちんと処方できているでしょうか。
外用薬の量が足りなければ、患者が正しく薬を塗布することなど、望むべくもありません。

そして、してはいけない指導の代表例が、
「この外用薬がなくなったら受診してください」です。
このように言うと、少ししか塗らない患者は、次に受診するのが次の年だったりすることもあります。
これは冗談ではなく、往々にしてあることなのです。

しっかりと外用するべき量を伝えるには、
「次は1カ月後に受診してください。それまでに今日処方した3本を全て使い切ってください」という指導をすべきです。
このように指導しておけば、初めのうちは外用量が少ない患者でも、薬の残りが多いことに気づいて、途中からは外用量を増やしてくれるはずです。

再診時に薬があまっている患者は、薄く塗りすぎているか、一部しか塗っていないか、時々しか塗っていないかです。そのあたりを確認して、再度外用指導をしましょう。

◆外用抗真菌薬は、いつ塗るのがよいでしょうか?
正解は、入浴後です。入浴後は、汚れや前日の外用薬が除去されています。
その上、角層の湿度と温度が高いため、外用薬の浸透が高まっています。
角層は、角層の水分量と温度が高いほど、外用薬が透過しやすいのです。
さらに、入浴後は誰でも素足ですから、脱衣所に外用薬をおいておけば塗り忘れも防げます。

塗り薬は、毎日入浴後に足の水分を趾間までよく拭き取ってから塗ってください。
チューブの薬を人差し指の第一関節まで押し出して、一方の足の足底、趾間、趾背、足縁、アキレス腱部まで全体に外用してください(実際に患者さんの足を指差しながら)。
もう一度同じ量の薬を押し出して、反対の足の同じ範囲に外用してください。
たとえ症状がなくても毎日両足に塗布してください。
このペースで塗ると、今日処方するチューブの薬の3本が、来月の受診までになくなるはずですから、頑張って使い切ってください。

2012年09月17日