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【記事】「前十字靱帯断裂にはまずリハビリを」

早期再建と比べて痛みや機能に有意差なし

海外論文ピックアップ BMJ誌より
大西 淳子=医学ジャーナリスト

活動的な若者に発生する急性前十字靱帯(ACL)断裂の治療において、早期に外科的な再建術を実施した場合と、まずリハビリを行い必要時に再建術を実施した場合で、5年後の転帰にほとんど差がないことが、無作為化試験で明らかになった。
スウェーデンLund大学のRichard B Frobell氏らが、BMJ誌電子版に2013年1月24日に報告した。

これまで、ACL断裂の患者全員に早期に外科的な再建術を行うことと、経過を追いながら必要な患者のみに再建術を行うことの短期的、長期的な影響については議論があった。
著者らは、今回の発表に先立ち、ACL断裂から2年が経過した時点の分析結果を報告している(NEJM.2010;363:331-42.)。
2年時の分析でも、両群間の主な転帰に有意差は見られなかった。
今回はさらに3年間追跡して得られたデータを分析した。

スウェーデンの 2病院の整形外科を受診した、18〜35歳で、初回の急性ACL断裂から4週以内の活動量の多い患者121人(平均年齢26歳)を登録した。
プロのスポーツ選手は除外した。そのうち62人(1人が脱落)をリハビリテーションに加え早期(断裂から10週以内)にACL再建術を行う群(早期再建群)、59人をリハビリテーションに加えて必要時(症候性の膝の不安定性が見られた時点)にACL再建術を行う群(必要時再建群)に割り付けて、ランダム化比較試験(RCT)を行った。
また、全員に同じリハビリテーションプログラムを実施した。 

割り付けから5年後の時点で、これらの治療が画像所見や患者自身の申告による膝の状態に及ぼす影響を比較した。
主要転帰評価指標は、膝関節損傷と変形性関節症転帰スコア(Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score:KOOS)の 4 つの下位尺度(KOOS4:疼痛、症状、スポーツおよびレクリエーション活動時の機能、膝関連QOLのスコア)のベースラインから5年後までの変化とした。
KOOSのスコアはどの項目も0〜100で評価され、高スコアほど状態は良好となる。
必要時再建群の患者のうち、30人(51%)が実際に再建術を受けた。
うち7人は2〜5年後の間に手術を受けていた。
早期再建群は1人が脱落し、5年時の評価は61人を対象に行った。
KOOS4スコアのベースラインからの変化の平均は、早期再建群が42.9、必要時再建群は44.9で、ベースラインのスコアで調整した差は 2.0(95%信頼区間[CI] −8.5から4.5、P=0.54)だった。
5年後の時点で以下の指標についても比較したが、いずれも有意差は見られなかった。
KOOS4スコア(P=0.45)、KOOSを構成する5項目のスコアのそれぞれ(全てP≧0.12)、SF- 36(P≧0.34)、Tegner活動性スケールスコア(0〜10で評価、10はプロ選手級の活動性を示す、P=0.74)、X線画像に基づくACL断裂膝の変形性関節症罹患(P=0.17)に有意差はなかった。
また、半月板手術の実施数 ( P=0.48)や半月板手術までの時間(P=0.77)にも有意差はなかった。
さらに、評価可能例のみの解析(per- protocol解析)も行った。
早期再建群と必要時に実際に再建を受けた群、早期再建群と再建術を受けずリハビリのみだった群、必要時に実際に再建を受けた群とリハビリのみ群で比較したが、いずれの比較でも有意差は見られなかった。
ただし、ラックマンテストとピボットシフトテストで評価した5年時の膝の安定性は、早期再建群で有意に高かった。
ラックマンテストで正常と判断された患者の割合は、早期再建群76%、必要時再建群33%(P<0.001)、ピボットテストでは76%、40%(P<0.001)だった。
ただし、per-protocol解析では、正常の割合は早期再建群と必要時に実際に再建を受けた群に有意差はなく、他の2群に比べてリハビリのみ群は有意に低かった。

今回の研究でACL断裂に対して、早期再建を行った場合と膝の不安定性などが問題となった時点で再建を行う場合で、疼痛レベルやスポーツ、レクリエーション時の機能、膝関連QOL、活動性などに有意差がないことが示されたことから、著者らは、「まずリハビリを行い、必要時にACL再建術を行うことで、手術を受ける患者を半減できるだろう」と述べている。

2013年02月11日