蛇美

私は今日まで生きてきました…

カレーライス

 

「やっぱ、変わってるね」
カレーショップで…
古い友人が不思議そうにわたしを見る。
わたしは、カレーを頬張りながら無理に笑顔を作る。

わたしのこの手の「変わってるね」評価は、
実はかなり歴史が古い。
つまり、もうずいぶん長い間…
カレーについて「変わり者」の
レッテルを張られ続けているのだ、このわたしは。

最初にみんなに驚かれたのは…
確か子供頃だった。
キャンプをすることになって、
そこで作るカレーの材料を
みんなで買い出しに行った時のこと。
ニンジン、タマネギ、ジャガイモ、お肉…
みんな、カレーの食材をそれぞれカゴに入れていた。
わたしもニコニコしながら
手に持った食材を入れようとした瞬間

「おめー、そんなもん入れんなや!」
最初に頭の悪そうなクソガキが口を開いた!
えぇっ?!
わたしの手が止まる!
「蛇美ちゃん変! そんなん絶対カレーに入れんよ!」
「ホンマ、ホンマ!信じられんわwww!」
生意気そうな女の子たちも口々にクソガキに続いた。
わたしは手に持った「干しシイタケ」と「竹輪」を
仕方なくひっこめざるを得なかった 。

…うちじゃ、コレがないカレーなんてありえんのじゃけど…

もー恥ずかしくて、
悔しかった。
喉の奥に石が詰まった感じがして、

…あれぇ知らんのん? 
この前テレビでおいしいって やっとったんじゃけど、

みんな見てなかった???
なーんて負け惜しみにもならないこと言うのが
精いっぱいだった。


確か、イイ感じの人と初デートの時もそうだった。
小じゃれたカレーショップに入って、
二人でオリジナルカレーを頼んだまでは良かったんだけど…

おいしそうなオリジナルカレーに
目の前にあるスパイス・調味料を片っ端からドンドンかけまくる。
確かスプーンを咥えたまま、フンフン鼻歌まで歌ってた気もする。
わたし的には…
いつものごく普通な食べ方だったんだけど…
ふと気がつけば、
店の人をドン引きさせていた。
目の前のその人はさらにその上を行っていたwww!
「アングリ口を開ける」
話には何度か聞いていたけど…
実物を見たのはその時が初めてだった。

そのいたたまれない雰囲気をどうにか打破しようと、
…こうやって食べるとさ、コスパ良くなると思わん?!
なんかさ、調味料の分、得するみたいな…ねぇ~?

なーんて、実は経済観念も案外しっかりしてんだぜ!アピールを
してはみたんだけど…ね
その後、その人から一切連絡はなかった。
「アイツとはなんか一緒に生活できる自信がない…」
その人は友人たちにそんなことを漏らしていたらしい。

社会人になって
住む場所が広島から東京に変わっても…
わたしのカレーライス「変わってるね」呪縛は、
変わることは…なかった。

友人の家でカレーをごちそうになった時、
生卵をぶっかけて食べていると…、
周りがまたまたドン引きした。

「それっておいしいの?!」

みんなの目は、なにか気持ち悪いものを見るみたいになってた。
アレは、子供の頃、犬をウ○コを踏んじゃった時の、
周りのあの目とまったく同じだった。

あれぇ?!知らないの???
広島じゃみんなこうやって食べるんだよ!!

なーんてみんなやってるぞアピールで
なんとかその場をごまかそうとはしたんだけど…
「そんなの聞いたことない!」
の一言であえなく轟沈したのだった。

そうなんだ!!
わたしはカレーを他人と共有してはならない!!
特に…人前でカレーを食べるのはヤバい!!
それを…

「ホント変わってるね?!」
わたしを見ながら同じ感想を繰り返す友人を前に
大事な「戒律」をいとも簡単に忘れてしまってた自分を呪った。

ソースだらけのルーの中に
どっぷり沈んだカツをスプーンでつつく。
そして器用に衣だけを口の中に入れながら
わたしは平静を装うのに必死だった。

…やっぱ、カツカレーの食べ方も変なんだ!、わたし!
一気に汗が噴き出してくる。
それは、カレーの辛さによるものだけではなかった。

「あんた、カレー食べる時ってさ…」

…ほら来た! 
この場をしのぐ何か良い言い訳は…
脳細胞を総動員して考えを巡らせるが
うまい答えなんぞ何も浮かんで来てはくれそうもない。
目が泳いでるのが自分でもわかる。
何なら金メダルだってとれちゃうんじゃねってぐらいに、
思いっきり目が泳いでるわたしに
友人は容赦なく続ける。

「いつもそんな風にカレーとご飯を別々に食べてるの?」

…そっちかーい!!


それまで必死に考えてた言い訳は
見事に全部ふっ飛び、
頭の中が真っ白になった。

「…蛇美んちって、みんなそうやって食べてんの?」
思わぬところからのフリッカーパンチで
軽く脳振盪気味にフリーズしたわたしを心配してか
友人は質問を微調整してきた。

ラッキー!
これなら何とか答えることが出来そうだ。
わたしはようやく友人の問いに答え始めた。

…全然違うよ、みんな全然違う。

父さんは、猫舌で
ルーやご飯、 どっちかが残っちゃうのが嫌みたい。
だから、全部グチャグチャにかき回しちゃうの!
ビビンバだってかき回して食べるのが一番おいしいんだぞ!
カレーも同じなんだっつってスゲ―勢いでかき回すんだよ。
でもまぁ~、結局は、
幼児性が抜けてないんだよね。むふっお子ちゃまよね

妹は…
アイツはなんだかんだっつってもお父さんっ子だから、
父親の呪縛からは逃れてないんだよね。
でも、やっぱ人前でみっともないこともやりたくない!
だから、スプーンすくえる範囲だけコチョコチョって混ぜて
それをチマチマすくって食べてる。
まぁ~、中途半端なアイツの生き方そのものが出てるって感じ。
あっかんべーそれを本人が自覚してないところがアレよねぇ〜

そういう意味では母が一番バランスが取れてるっていうか、
特に混ぜるでもなく、ガッてカレーとご飯を一緒にすくって、
そのまま口に放り込んでるよ。
ある意味、一般的なのかもしんないけど…さ
単にめんどくさがりの性格がそのまま食べ方に
反映されてるって感じかながく〜(落胆した顔)要はガサツなんだよね!
たださ、父さんのカレーを食べるのを見る
母親の目つきは半端なかったからねぇ〜
子供心に人間ってあんなに冷たい目ができるものなんだって感心してた。
もしかしたら、父の幼児性に暗に対抗してんのかもしんない…けど
そこら辺はよくわかんないし、興味もない。

で、わたしは…
単純に白米が好きなのハート達(複数ハート)白米サイコ―!
白いご飯はさ、やっぱ白いまま食べてあげたいじゃない!
それこそがわたしの白米愛なのよ!考えてる顔キッパリ!
カレーうどんとか…
お気に入りの白いシャツに飛んだら切ないじゃない?!
わたしにとっては、その白いシャツと同じなんだよね、
白米っていうのは…


まるで赤毛のアンでも乗り移ってんじゃね?!
ってぐらい熱弁をふるってた。
話し終わったころには、
カツカレーはすっかり冷めちゃってた。

友人は…というと、
”ありゃ―ホントじゃったんじゃねぇ〜”なんて言って笑ってた。

「高校ん時ね、
あんたとカレー食べたら面白いことが起きる!
って噂、てゆかも〜伝説みたいなもんがあったんよ。
でも、あんたはカレーどころか、
昼休みになるといつもどこかにプイって消えとったじゃろ?
で、ずーっとみんなで何が起こるんじゃろ?!
って噂しとったんじゃけん」
懐かしそうにわたしに笑った理由を説明した。

…確かに、
高校の時の昼休みは
わたしの大事な喫煙タイムだったもんなぁ〜
ソッコーで屋上行ってたんだよね

にしても、伝説って…何?!
わたしはUMAか?!
てか、こいつって、
そんな昔の訳の分かんない伝説期待して
わたしをカレーに誘ったんか!
…なんて奴!

一瞬、複雑な思いが込み上げてもきたが、
友人の昔と変わらない笑顔が、
わたしを少しだけ和ませてくれた。

「また一緒にカレー食べようね♪」
そう笑って帰っていく友人を見送りながら
ふと、家族でカレーを食べてるあの風景が思い出された。

みんな笑ってる。
わたしも笑ってカレー食べてた…

何の気がねもなく、
人と一緒にカレーを楽しく食べられたのは…
多分、あの時が最後だったかもしれない。

そして…
あの風景は
もう二度と帰ってこない。
それはわたしが一番よくわかっていた。

感じたこともない
ある種の切なさが
思いの外強い力で胸を締め上げた。


あれれ…ちょっと胃が痛いわwww

まぁーカレーってさ…
アレだよねぇ〜
なんて意味ありげにつぶやいて
わたしは家路を急いだ。


そんな訳で、
…わたしとカレーを食べる時は、
色んな意味で
覚悟を以て食べなければなりません!